トレース初心者向けに、自分なりのコツなどをご紹介。
FREELY TOMORROWのモーションファイルに同梱したテキストの改訂版です。
この記事では
「モーション配布を前提に、標準ボーンでなるべく元動画の動きを忠実にトレスする」
ことを目標としています。
1)準備
2)センター
3)上下半身
4)足
5)センター修正
6)頭
7)肩
8)ひじ
9)腕
10)指
11)手首
12)表情
13)仕上げ
とまあ、これだけのプロセスを踏むわけでございますが、
まとめられる所はまとめて見て行きましょうね。長いと疲れるので。筆者がね。
筆者が書いているのでなく、おやぶん式ミクさん(通称ぶんちゃん)が喋ってると思って読むと集中力が途切れないで済むでしょう。画像をつけておきます。親切設計です。
<トレスは楽しいですよ!
特に斬新な手法や独自の理論はないと思いますので、
初めての方はdanchoPの講座でも見てイメージをつかんで下さい。
他にも以前の記事で色々な動画を紹介しています。
このburoguでは講座を見ていて自分が分かりにくかった部分や
つまづいたところの補足を備忘録として書き残しておくつもりです。
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第1回 ~トレス前の準備~
今回は以下の項目について見ていきます。
◆標準ボーンのメリット・デメリットを把握する
◆ボーン表示枠の変更(PMDE)
◆「全ての親」について
◆背景動画のfpsチェック
◆マルチモニタ(MME)
◆パースと初期位置
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◆標準ボーンのメリット・デメリットを把握する
そもそも、なぜ標準ボーンでトレスをするのでしょうか?
改造ボーンとの比較をしてみましょう。
・標準ボーン
◎ 多くのモデルに対し、モーションを読み込むだけで適用できる
☓ モーションの精度に難があり、調整に手間がかかる
・改造ボーン
◎ 動きをより滑らかに、自然な表現が作りやすい
◎ 成分分解によりモーション作成や調整が容易になる(モーションのレイヤー化)
☓ そのままでは他のモデルに読み込めず、モデルを改造する必要がある
改造ボーンの威力…
百聞は一見に如かず、こちらをご覧下さい。
↑この図を見れば分かる通り、こちらのモデルは徹底した多段化がされています。
これだけの改造を施したカスタムモデルのモーションは一般配布されないのが通常です
(配布されても同じ改造を施したモデル以外では使えません)。
また留意すべき点として、動きはため息が出るほど美しいのですが
「トレス元の動きに忠実か」と言われると、おそらくノーです。
この点についてはボーン改造の有無とは別に、トレース前に考えておくべきでしょう。
すなわち、
元動画と作成したモーションを並べて比較し、完全に一致している様子を見て楽しみたいのか。
振り付けをモデルに合わせて調整し、モデル単体での動作の自然さにうっとりしたいのか。
という方向性の違いです。
どちらが正しいとかレベルが高いとかいう話ではなく、純粋に好みの問題です。
正確なトレースを第一にするのか、自然なモーションの作成に重点を置くのか。
ちなみに筆者は前者よりですね。
さて、別に改造をせずとも標準ボーンで自然なモーションを作ることは十分に可能です
(事実、配布されている名作モーションの大部分は標準ボーンで作られています)。
が、なるべく楽をしたいので使えるものは使って行きたいところです。
実際には、トレース時にもいくつかのボーンを追加して使用するのが現実的です。
PMDEの準標準ボーン追加プラグインを使うことで、
知識がなくともほんの数ステップの操作で簡単にボーン改造を行うことができますから、
準標準ボーンはカスタムモデルとは異なり、共通規格と捉えて構わないでしょう。
こだわりが無い限りは上半身2やグルーブあたりは使ってもいいと思います。
ただし、ボーンが増えモーションの自由度が増えるほど操作は煩雑になりますので、
最初は標準ボーンのみである程度トレースをしてみて、
後から「準標準ボーンはこんなに便利なのか!世界が変わった!」
というステップを踏んだほうが効果的かもしれません。
筆者の場合は、準標準ボーンのありがたみをより強く実感するために
敢えて標準のみで挑戦していましたが、次回は準標準ボーンを解禁して挑むつもりです
(※この記事は標準ボーン前提で書かれています)。
ただし、「準標準ボーンのプラグインを使って下さい」という一言を添えただけで
配布されたモーションを使うユーザーは激減し、
さらにreadmeや注意書きを読まずに標準ボーンへ読み込んで破綻したモーションのまま
動画にして投稿する人は確実に出る、らしいです。
<まとめ>
・標準ボーンを使うのは、配布した時により多くの人にモーションを使ってもらうため。
・独自のカスタムモデルを使えば自然なモーションが作りやすいが、配布には向かない。
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◆ボーン表示枠
ボーン構造自体は標準ですが、表示枠は下図のように変えています。
人によって表示枠の使いやすい順番は差があるようで、
「トレースする順に上から並べる」という人もいれば
実際の人体を模して「頭・上半身・腕・指 下半身・足」と並べる人もいるようです。
筆者は・・・デタラメな配置ですね。特に理由はありませんが、これで慣れてしまいました。
順番はともかく、左右は分けたほうが視認しやすい上、反転コピーが使いやすくなります。
表示枠はPMDEにデフォルトで編集機能がついていますし、
専用のプラグインも配布されていますので簡単に変えられます。
<まとめ>
・表示枠は使いやすいように変更しよう
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◆「全ての親」の有無
トレースで使用するモデルに「全ての親」がある場合は
【全ての親】を削ってしまった方がトレースが少し楽になります。
そのままでも特にクリティカルな問題があるわけではないので、
モデルを改造したくない場合は無理をしなくても大丈夫ですが、
作業効率は変わってきますので実際にどう違うのか見てみましょう。
1)まずは適当なポーズをとらせて・・・。(ポーズデータは美少女フィギュア100人斬り)
2)ここで足の動きをトレースするために、【左足IK】を【初期化】したとします。
初期化はトレース中に割と頻繁に使う機能です。
↓まずは全親なし(センターのみ)の場合。
↑左足が体の中心(センターボーン)に従ってリセットされ、
おへそから真下の位置に来ましたね。
足首から下は地面にめり込んでいますが、【Y値0化】をすると綺麗に接地します。
↓では次に【全ての親】がある場合。
↑見比べてみると分かりますが、初期化した後の左足の位置が異なります。
3)比較してみましょう。
↑「全ての親あり」の場合は足IKがリセットされる基準が【全ての親】の位置になり、
「全ての親がない」場合はセンター位置に追従することが分かります。
赤くなっているボーンがそれぞれ【全ての親】と【センター】です。
このサンプル画像では【全ての親】と【センター】の位置がそれほど離れていないため
大きな違いはなさそうに思えますが、トレースしていくうちに両者が離れていくと・・・
↑こうなるともう【初期化】の意味がありません。
トレースする上でボーンをいじりすぎて変な角度にねじれたり
ボーンの向きが分からなくなった時にとりあえず初期化をすることが多いのですが、
毎回こんな位置に持っていかれたのでは面倒この上ないです。
・・・というわけで、PMDEで「ボーン」タブを開く→「全ての親」を右クリック→「削除」→別名保存
手順はこれだけですから、トレースを始める前にさっさとやってしまった方がいいと思います。
<ここで耳寄り情報>
モーション作成に特化した、ver2カスタムが公開されています。
【特長】
・表示枠は部位別、左右振り分けカスタム済!
・モーション作成に適した、「全ての親」なしモデル!
・モーフで袖を出すこともでき、単体でver2ミクさんのモーションを作成可能!
・トレス時には邪魔で仕方ないツインテをお団子に!
手間を省きたい方や改造に自信のない方にお勧めです。
MMDデータ保管所@mahiro
<まとめ>
・【全ての親】は削除した方が楽
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◆背景動画(トレース元動画)のfpsチェック
続いて背景動画のチェックです。
ニコニコ動画から入手した動画は大抵mp4形式だと思いますので、
MMDで読み込むためにaviに変換するわけですがここで注意がひとつ。
動画のフレームレート(fps)は必ず確認して下さい。
29.97fpsの動画がかなり多く見受けられますが、
MMDに読み込む際は30fpsにする必要があります。
29.97fpsの元動画を使ってしまった場合の影響については、VPVPwikiのここに載ってます。
簡単に言うと音ズレが発生するということなのですが、
以前私はこれを知らずに動画を一本作ってしまったことがあります。
その際は後半に行くに従ってどんどん音ズレする動画を
premiereで速度変更して帳尻を合わせました。
fpsの確認と変換はaviutlを使うのが簡単です。もちろん他の方法でも構いません。
フカヨミの場合は・・・
↑これも29.97fpsですね。
aviutlの拡張AVI出力プラグインplusを使えばfpsを一発で変換できます。
ついでにAviutlでWaveも出力しておきましょう。
<まとめ>
・背景動画のfpsは30にする
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◆マルチモニタ(MME)
↓DLはこちらから(ビームマンP)
↑このように、他視点のサブカメラを追加することができます。
画像では2つ同時使用ですね。
MMDでのモーショントレースは正面視点で行うことが多いのですが、
単一の視点で作業を続けていると落とし穴が待っています。
例えば次の画面をご覧下さい。
↑一見、ちゃんとトレースできているように思えます。
しかしカメラを側面に回してみると・・・
↑実はこのように、センターの位置が大きく傾いて今にも後ろへ倒れそう。
右手は前に出ていて左手は鎖骨にくっついているというちぐはぐな状態でした。
これを防ぐために3DCG ソフトでは視点分割が実装されている場合が多いようですが、
MMDにはその機能がないため上掲のMMEエフェクトを使います。
↑正面からトレースしつつ、リアルタイムに横からの視点で姿勢をチェック。
このエフェクトを使わない場合は、
毎回キーフレームを打つたびにカメラをぐるぐる回して確認する必要があります。
何か特殊な事情がない限り、素直に導入をお勧めします。
<まとめ>
視点変更の手間を減らすためにマルチモニタエフェクトを導入する。
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さてこの記事も長くなって来ました。集中力が落ちてませんか?特に筆者が。
しかし、準備段階できちんと手順を踏まないと、
今後数週間から数ヶ月かけて作るであろうトレースがろくでもない出来になる危険があります。
土台から間違ったビルの傾きにあとで気づいても修正は難しいのです。
休憩を挟んでもいいので、もう少しだけ見ていきましょう。
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◆パースと初期位置を合わせる
パースそのものの詳しい説明は省きますが、
この記事においては「視野角とカメラ位置によって構成される、画面の見た目」を指します。
MMDの視野角については
動画を作ってみよう!・5~カメラについてもう少し詳しく(はじめてのMikuMikuDance)
MMDの標準ミクさんを可愛く撮るためのTipsと自己流カスタマイズの紹介(DONburiroom)
などが分かりやすいと思います。
元の動画とMMDのパースが合っていないと、
見かけの上ではモデルの動きを精密にトレスしたつもりでもデータ上は整合性がとれず
姿勢や動きに歪みが生じる恐れがあります。特に奥行きへの影響が顕著です。
元の動画にパースの目標となるものがあれば、それを目安にグリッドを合わせていきます。
パースの目標物が多ければ多いほど正確にカメラを決められますので
トレス元を選ぶ際にはこの点にも注目してみるといいかもしれません。
ただ、前後移動が少ないモーションの場合はそれほど大きな影響は出ませんので
神経質になる必要はないと思います。
パース目標:多い
パース目標:ふつう
パース目標:少ない(前後移動があまりないので影響は少ない)
MMDをカメラモードにして視野角とカメラ位置を調整したら、
モデルとトレス対象の位置をぴったり合わせてカメラをキーフレーム登録します。
これがトレース作業中のデフォルトのカメラ位置になります。
トレス中はモデルのボーンを操作しつつ、
視点を上下左右に動かしたり回転させることもありますが
視点操作パネルの【カメラ】を押すことですぐにデフォルト位置に戻すことができます。
↓モデル操作中、視点の移動はここで(回転はマウスで右ドラッグ)
↑【カメラ】を押すと視点が最初にパースを合わせた位置に戻りますので、
動作の確認はその状態で行います。
余談ですが他の方のトレス動画を見ていると、
視野角やカメラの上下(Y移動、X回転)を調整しないまま
見かけのポーズだけ合わせているのでは?と思われるものがたまにあります。
出力時にそうしているだけなのか、トレス中もそのままなのか・・・。
余計なお世話かもしれませんが、心配ですね。
<まとめ>
・パースを合わせてカメラ登録する。
・トレース中にはその都度【カメラ】ボタンで視点をリセットする。
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さて、長い説明でしたがようやくこれでトレースの準備が整いました。
すでにげっそりしている筆者もいますが、多分この項目が一番長くて
後は「気合で」とか「勘とセンスで」とか「適当に」とかそういう表現が増えるので安心してください。
それを安心というのかどうかは判断がわかれるところですが・・・。
筆者自身もトレースに関してまだまだ勉強中で至らない点は多いかと思いますが
こうして書いておかないと次に作業する時に自分が忘れてしまうので、
その保険としての意味もあります。
実際、FREELY TOMORROWを作った後1ヶ月近くMMDを放置し、
フカヨミに取り掛かったらトレースの段取りが頭から消えてました。
こうして毎回経験値をリセットするのが筆者の最大の難点なので
記録しておくことが数カ月後の自分にとっても役立つに違いありません。
それではまた次回お会いしましょう。蔵人でした。
第2回はこちら